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職人最後の仕事

四代目が27歳の時、家具業界の修行先である横浜 関内 伊勢佐木町に立地していた「双葉家具」からに岐阜に戻り、安田屋家具店に入社した時からの付き合いのある椅子張り職人のKさん。

国家資格である技能検定制度の一種の家具製作技能士「一級椅子張り技能士」の資格を持っているKさん、奥さんと二人で椅子製作所を営んでいました。

横浜から戻ったばかりの四代目が初めて椅子張替を依頼するためにKさんの工房を訪ねた時、頑固そうでちょっと強面のKさんに恐る恐る接していたのです。しかし双葉家具で様々な頑固な職人や、やんちゃな運送会社の運ちゃんらと接していた経験から、直ぐにKさんとも打ち解けていったのでした。

あれからなんとすでに31年の付き合いです。
年々椅子張替需要も減少している中で、久しぶりの食堂椅子座面張替があったのでKさんの工房に行ってきた。

今回の張替は座面だけで、一番簡単な「ボウズ張り」と呼ばれる張り方である。椅子座面を取外すのに通常と異なり、一度椅子本体を分解しないと座面が取り外せない摩訶不思議な構造となっていた。

座面裏についている金具を取外そうとした四代目でしたが、ネジ山が無いのです。ネジで止めてあるようなのですが、ネジ山に溶接がしてあり、取外せないようになっています。何だこれは…!!

そのため座面裏に金具が取付いた状態で張替作業をしないとならず、少々やり難い作業です。いつものようにKさんに座面を渡し、面倒な作業になることを詫びたのでした。

しかし、この張替が職人歴60年以上のKさん最後の仕事になるなんて、この時想像することもできなかったのです。

4日後に張替が仕上がったとKさんから連絡があり、直ぐに工房に向かったのでした。

きれいに仕上がっています。
中身のウレタンクッション材も全て新しい材料に取替えたので、座り心地も新品当時に戻りました。

この一番簡単な「ボウズ張り」は、一見素人でも簡単にできそうに見えますが、実際にやってみると意外と難しいのです。特に四隅にシワが出ないように張るには技術が必要なんですね。

一度四代目もKさんの工房でやってみたことがあるのですが、ピシッときれいにできませんでした。座面の厚みがあればさらに難しかったです。どうしてもどこかに微妙なシワが出てしまいますね。やはり職人は職人です。素人とは違います。

張替後の椅子を受け取った四代目にKさんが言うのです。

「歳を取ったのか、右手を先日手術した影響なのか、右手の親指にまったく力が入らなくなった。今回のボウズ張りくらいは張替できると自分では思っていたが、親指に力が入らないので生地を引っ張ることができない。情けない話だ」

「今回のボウズ張りがやっとやっとで何とか張替できたが、こんな手に力が入らない状態では納得できる仕事ができんわ。お客さんにも迷惑かけたり、出来の悪い仕上がり方では申し訳ない。中途半端な出来の悪い仕事は俺にはできん」

「安田屋家具店さんとも、四代目とも長い付き合いだったが、申し訳ない、今回の仕事を最後にする。長い間ありがとう」

えっえっえっーーー!!
四代目が依頼した仕事が最後の仕事になってしまった。
えっこれって四代目がKさんに引導渡したみたいなもんになってますよぉー。いやぁーまいった。Kさん、こちらこそ申し訳ありませんでした。いゃぁー、困ったねぇー。

Kさんの職人としての潔さ、流石です。
31年間、いろんな出来事がありました。
難しい張替作業や、徹夜での作業なんかもありましたね。息抜きに工房に立ち寄ったりしたこともありました。

最初にあったのが31年前、Kさん40歳代の職人として乗りに乗っている時期だったんですね。お互い若かったですね。長い間ありがとうございました。Kさんのお蔭で稼がせてもらいました。これからもちょくたょく顔見せに訪ねてきますからね。

今回の仕事がKさん職人歴60年以上の最後となりました。最後の瞬間に立ち会えたことは光栄なことです。岐阜市内からまた一人職人がいなくなりました。これからが大変です。

もともと岐阜市内には数件の椅子張り職人しかいません。いずれも高齢で、ご子息はみな跡を継がれないので減っていくばかりです。つい先日も岐阜市近郊の職人が高齢により廃業したとのことです。四代目が知る上では2件しか椅子張り職人は岐阜市内にいないようです。

Kさんに代わる新たな安田屋家具店の椅子張替職人を探さなければ・・・・、頭を抱える四代目です。

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11月 14, 2018 · Posted in 椅子張替え  
    

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