アルテジャパン製のダイニングチェアーの座面と背面のみが送られてきました。ともに籐シート張りです。
アルテジャパンはもともと吊り鏡やガラステーブルを取扱っている工場です。椅子などの商品数は少ないです。
座面の籐シートは破れています。
この椅子のオリジナルは、1929年に発表されたバウハウスを代表するデザイナー「マルセル・ブロイヤー」の代表作である「チェスカチェア」です。愛娘の名前(チェスカ)から「チェスカチェア」という愛称で親しまれている名作チェアです。
それから80年以上経った今でも、腰を下ろした時の適度な弾力性によって快適な座り心地を実現していて、最も有名な金属製チェアの1脚として、様々な工場で作られた商品が出回っています。
ただ最近は籐シートの素材の耐久性が低下したことにより、籐シート張りはほとんど見かけなくなりました。
背面、座面ともに籐シートは消耗品であるとの考えで、簡単に張替が出来るように「溝決め込み仕上げ」で籐シートが張られています。
木枠の渕周りに溝が彫られていて、そこに籐シートを入れ込み、籐芯を叩き入れて抑えて止めます。大きな工場で生産する場合、流れ作業で誰でもきれいに籐シートが張れるように、溝に入れ込んだ籐シートをタッカー針(ホッチキス針の大きいもの)で留めてから、籐芯を入れるんです。張替える時のことをまったく考慮していない方法なんです。この針を木部を傷つけないように溝から取り除くのは至難の業です。
籐シート張替え作業で一番大変なのは、古い籐シートを取外す作業なんです。一度四代目も体験しましたが、溝にはめ込んである籐芯を取り外す時に、先が鋭利な道具を籐芯に差し込んで、テコの原理で溝から取外すのですが、その時に溝の渕の木部をへこませたり、傷つけたりしてしまいます。さらに木部を傷つけないでタッカー針を取り除くのは出来ませんでした。
以前、地元の職人にやらせたら、籐シートはきれいに張り直されてはいるものの、溝部分の木部が欠けたり、デコボコとへこんだりしていて、お客様宅に納められる状態ではありませんでした。このときは木部の補修も含めて再度やり直しを行いましたので、大赤字でした。
そのため現在では、とても優秀な職人を探し出すことが出来ましたので、安心して任せられます。一度工房を訪ねましたが、溝から籐芯やタッカー針を取り外すための特殊な道具を職人自ら作られたことを知りました。
ただしその熟練職人でもまったく木部を傷つけないで張り直すことは出来ません。目立つ傷ではありませんが、多少のへこみ傷が生じますことをご理解ください。張替えを考慮しないで生産した工場側の責任なんですから。
その点、今回のアルテジャパン商品は、籐シートは張替える事を前提に生産していますので、籐シートはタッカー針で留めてありませんでした。良心的な工場です。・・・・・・、つづく